常に「新しさ」を探していたい

FOCUS

Vol.15

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日本デザインセンター画像制作部 フォトグラファー 細川類

常に「新しさ」を探していたい

〈 後編:仕事と自主制作のあいだで 〉

「余白」を持ち込むという挑戦

仕事以外でも、フォトグラファーとして新しいものをつくれないか常に模索していて。今回制作した「someone, somewhere」もそのトライアルのひとつです。この作品は、「余白」を意識して制作に臨みました。見知らぬ若い男女が東京で出会って、1日だけ一緒に過ごす。最低限のストーリーや登場人物の設定は決めつつ、それ以外は当日の現場の空気で決めていく。そんな風に、計算できない要素を活かした撮影をしてみたかったんです。表現形式に映像ではなく写真を選んだ理由も、情報量を少なくして余白を持たせることで、受け手の想像力でストーリーを補完してほしかったからです。出演者についても、あえて経験の少ないモデルの方を起用しました。経験が豊富な方だと、こちらの意図を汲み取ってくれる一方で、良くも悪くもコントロールされたものができあがってしまう。そうではなくて、この作品では硬さや緊張感といった不安定さを、表現の余白として捉えたいと思ったんです。

撮影当日は、出演者の方たちとはあいさつだけしてスタートしました。「メイクされて、着替えもしたけれど、何をすればいいんだろう」と不安に思いますよね。それこそが、僕の撮りたい表情でした。登場人物の距離がストーリーの中で縮まっていくのに合わせて、自分と被写体の2人との距離を縮めたかった。だから、最初はあえて説明をしなかったんです。その後、撮影の主旨やストーリーを少しずつ説明したり、お昼を一緒に食べたりしながら徐々に打ち解けていきました。関係性の変化のなかで写真を撮っていくような進め方は、普段の仕事ではできないので、トライできて面白かったですね。

「someone, somewhere」

次に撮りたいのは日本のレースシーン

今回の作品もそうですが、人物を撮影するときは自分の立ち位置に気をつけています。カメラマンの視点は、写真を見る人の視点だと思うんですよ。だから、人物とそれを見る人の視点の関係性が重要になってくる。「こういうシーンだったらもう少し近い場所から撮ろう」「こういうシーンだったら街の中に偶然人物が写っているような撮り方にしよう」など、一番最適な視点は何かを考えながらシャッターを切っています。

普段の仕事はゴールが決まっていて、いわば一本道を最短距離で行くようなもの。実験的な撮影の進め方にはなかなかチャレンジできないのが現状です。けれど、自主制作で身につけた技術や表現方法は、この先の現場で活かせる機会がきっと来るはず。そう信じて、フォトグラファーとしての引き出しを増やすつもりで取り組んでいます。

次は、日本のカーレースのドキュメンタリーを撮ってみたいですね。僕、レースを観るのも好きなんですよ。ヨーロッパをはじめ、アメリカや中東でも人気が高まっているスポーツなのですが、日本ではまだまだ競技人口も観客も少ない。その理由を自分なりに考えているので、作品を通じて日本のレースシーンを盛り上げたいです。